2012年8月〜2015年6月の約3年間「瀬戸内・松山食べ巡りプロジェクト」で、取材撮影をした編集部によるレポートです。
事業期間終了と共に運営変更に伴い、「瀬戸内・松山 しまめぐり」の事業では更新することはありませんので、ご了承いただきますようお願いします。
木地屋
太山寺の豊かな緑に囲まれた参道途中、「お気軽に休憩されてください」と書かれた看板。
年が明けて間もないしんしんと冷えた昼頃、火鉢がありほのかな温かさと共になんだか懐かさを感じる休憩所「木地屋」から、楽しそうな笑い声が聞こえくつろぐお遍路さんの姿がありました。
江戸時代のころ太山寺参道に並ぶ4軒は、遍路宿や茶・地域の名産「あんころもち・こんにゃく・うどん」などを売ったりする茶屋として賑わっていました。しかし戦後間もない昭和20年代前半に廃業となり、伝統のお茶屋の灯が消えました。木地屋のご主人である木地照雄さんの叔父・常彦さんも若い頃に遍路宿として多くのお遍路さんを迎えていましたが、同じく戦後に看板を下しました。その常彦さんが数年前に亡くなり空き家となっていましたが、照雄さんが退職後に「おもてなしの場所にしたい」と、築80年以上の古民家を改装されて2012年5月開業。「自分たちの出来ることを精一杯しているだけです」と、温かい想いの照雄さんと真知子さんご夫婦で営まれています。
木の温もり溢れる家の中は、あがり畳の純和風の造りに机や椅子など幅広い層に対応しています。長く続く参道は体力を消耗し、お遍路さんや参拝者にとって「ほっ」と一息が入れる場所。高齢のご夫人が「ちょっと休ませて」と入って、倒れるように座りました。お茶を飲み休むこと10分足らず、「ありがとう」と本堂を目指されて行く足取りは少し軽くなっていました。途中でくじけそうになった本堂への道のりも、休憩所があることで「あともうちょっと」と先へと導いてくれます。そのように体を休めてすぐに立ち去る方や、いつの間にか座り込み話して行くお遍路さんなどがいて思い思いの時間を過ごしています。
北海道から来たお遍路さんは、火鉢を実際に見るのは初めてで驚かれたご様子。聞けば「北海道では火鉢では間に合わないですよ」との返事に、思わず「そっか!」と納得の木地さん私。お遍路さんは時に様々な情報を置いて帰り、またお遍路さんも話すことで元気になり旅立っていきます。それがお接待であり、人とひととの繋がりが心を通わすことになるのでしょう。
お遍路さんの多くは、様々な理由があって四国遍路に出ます。その人の人生は出会いであり、心に寄り添えるお接待がそこにはあります。農家を営みながら毎週日曜に近くの家から来て開ける木地屋は、人生の休憩場所かもしれません。