2012年8月〜2015年6月の約3年間「瀬戸内・松山食べ巡りプロジェクト」で、取材撮影をした編集部によるレポートです。
事業期間終了と共に運営変更に伴い、「瀬戸内・松山 しまめぐり」の事業では更新することはありませんので、ご了承いただきますようお願いします。
曽祖父の膝の上で食べたうどんの味
松山の商店街から一本入った路地にある、昭和の面影を残す老舗「アサヒ」。
店内は木のテーブルと座敷があり、どこか懐かしさを感じます。
長年愛用されているアルミの器、懐かしい味と優しい甘さの出汁の「アサヒ」の鍋焼きうどん。その味は、松山の味として多くの人に愛されています。メニューは、「鍋焼きうどん」と「鍋焼き玉子うどん」の2種類。
伊予灘の秋獲れのいりこと岩手産の昆布を使用し、一日に数回取る出汁は創業以来変わらぬ味。甘く煮込んだお肉から出る味が出汁に溶け込み、深い味わいへと変化します。
アサヒは昭和22年創業、現在四代目・川﨑哲子さんがその味を引き継がれています。曽祖父から祖父へ、父から娘へ・・・引き継がれ守られ続けられた味。
哲子さんは2011年、父からお店を譲り受けました。それまで事務員をされていた哲子さんは、180度違う仕事に戸惑いや責任感の重たさを感じられたこともあったようです。しかし「美味しかった!」というお客様の笑顔とその声に励まされ、やりがいと面白さを感じられるように。曽祖父や祖父の代からのお客様がお子様と一緒に来る、そして孫を連れて来る・・・人の歴史を感じ心が熱くなることもあったと話されていました。
そして思い出したあの日のこと。それは、曽爺ちゃんの膝の上で食べたうどんでした。厳格な曽祖父は幼い哲子さんにとって、少し近寄りがたい存在だったそうです。その曽爺ちゃんが作ったアサヒのうどんを膝の上で食べたこと、その時の温かい思い出が哲子さんのこころにふと甦ってきました。その温かさをより多くのお客様に味わっていただきたい、その想いでされています。
老舗には守っていくもの、そして変えていくもの、その両方が今求められていると哲子さんは言われていました。曽祖父が作り上げた歴史と味、反対に哲子さんよりも知っている方もいらっしゃるそうです。その伝統ある味を守り続けていく中、新たに変えたものがあります。
アサヒは「太陽」「昇る」という想いで、曽祖父が名前を付けられたと・・・その想いは「元気」「エネルギーの源」という気持ちを込めて、朱色の暖簾でお客様を迎えられています。
趣味で描かれていた祖父の絵と一緒に、哲子さんがお気に入りの赤富士が飾られています。
そして心地よく過ごして頂きたいと、瀬戸内工芸にオーダーでお願いした椅子。瀬戸内工芸では木材を中心に制作されていますが、アサヒのシンボルとも言える朱赤でクッションを付けてくれました。その柔らかさが、哲子さんのお客様への想いのように感じます。
そして創業以来の椅子もまた、店内に一つ置いています。懐かしさを感じてほしいという気持ちと、代を引き継ぎ守っていくという信念を感じずにいられませんでした。
体は「食」で作られ、体と心の栄養のバランスがとれているからこそ元気にいられます。温かく心満ちる元気を少しでも多くの人に味わって頂きたい、優しい甘さのアサヒの鍋焼きうどんには優しい想いが込められています。
【アサヒ】
住所:愛媛県松山市湊町3-10-11
電話番号:089-921-6470
営業時間:10~17時(売れ切れ次第閉店)
定休日:水曜日
駐車場:無